ライカート監督だ!わーい!というだけで観に行ったら予期せぬトビージョーンズの登場に萌えを拗らせすぎて頭痛がすごかったです(終わり)

物語の舞台は1820年代、西部開拓時代のオレゴン。 アメリカン・ドリームを求めて未開の地にやってきた料理人のクッキーと、中国人移民のキング・ルー。 共に成功を夢見る2人は自然と意気投合し、やがてある大胆な計画を思いつく。 それは、この地に初めてやってきた“富の象徴”である、たった一頭の牛からミルクを盗み、 ドーナツで一攫千金を狙うという、甘い甘いビジネスだった――!

引用元:公式サイト

このあらすじだけ見ると笑いあり涙ありハートフルストーリーみたいですが、そこはライカート監督なのであんまりそういう感じではないです。ちょっとうまいたとえが見つからないけど「シェフ」(2015)みたいなのを期待すると全然違うと思います。

ライカート流・男二人の激重感情のやりとりを目撃し、その余白に苦しむことができる方は笑ったり涙したりと楽しめることでしょう。でもそれを差し置いても今作はかなり観やすい、ストレートに面白い!と思える作品でした。

①他人の人生は推測することしかできない

カメラと被写体との間にかなりあからさまな遮蔽物を置くのがライカート映画だと思うのですが、今作でもその点は遺憾無く発揮されていてよかったです。草むら、木の幹、家の壁や窓。フォーカスされている被写体の手前には必ずなにか視界を曖昧にするものがあって、それが登場人物との間に大きな隔たりを感じさせます。

観ている側はこの開けられた距離から今画面の中で起きていること、登場人物の考えていること、そういうことを想像しなければならない。この作品はその「余白」を「感じさせる」ことが大きなウェイトを占めていることも良さの一つだと思います。でもライカート監督の面白いところは、想像に任せるだけではなくて描くところはきっちり描いているところなんですよね。何かは確実に起きていて、行動原理もあって、起きた事実もこれから起きることも全部そこには並べられていて、その上で想像の余地を残している。

ファースト・カウはいわゆる「そして冒頭に戻る」タイプの構成で、正直最初からこの先どうなるのかぜんぶわかった状態で進んでいくんですね。さらにその上必要事項は全部抜かりなく描いてなお「余白」を作り出すのは正直すげ〜〜としか思えませんでした。

②古きアメリカに夢見る「良さ」

この映画いわゆる西部開拓時代が舞台です。自分があまりこの時代のことに明るくないので細かいことはなんともなんですが、今作中は白人(米・露・英等々)・アジア(中国)人・黒人・ネイティブアメリカン等々いろんなルーツを持つ人々が一堂に会していてよかったです。色々あるとは思うのだけど、みんなそれぞれが自分たちの利益のために距離感を測りつつあったみたいな、そういうタイミングもあったんじゃないかな……あったらいいな……と思いました。

あとネイティブアメリカンとの通訳を担う女性の役をリリー・グラッドストーンが演じていて素敵でした。出演時間は短かったけどめちゃくちゃ印象に残る役だったし、またライカート監督がちゃんと描くんですよこれがね……(詳細は劇場で目撃してください)

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンをまだ見てないんですがこの方の演技を俄然見たくなってきました。

③トビー・ジョーンズがよすぎた

いやあのねトビー・ジョーンズ出てくるって知らないで見に行ったら最初のクレジットで名前が出てきたからそれはもう「ごめん今なんて言った?」ってなるわけですよね(同意を求めるなよ)。いったいどんな役で出てくるんだ……と震えていたら、現地駐在(と言えばいいのか?)英軍人(地域の有力者・都会が恋しい)的な役どころでめちゃくちゃ所作がエレガントだったりとにかく挙動がいちいち素敵でだいぶ無理でした。

なのでこの方が出てくるたびにひたすら「トビージョーンズの思い出の味か…」「トビージョーンズの家でお茶会か…」「トビージョーンズの寝巻き姿か…」(トビージョーンズって呼ぶな)等々の感想に苛まれ、おそらく興奮しすぎたのかずっと頭が痛かったです。それくらいよかったです。

本当、もうね……この人がヘラ…と笑うと可愛すぎるんだよ〜(泣き出すオタク)あと何をお召しになっていても似合うんだ。強い。この作品に一切関係ないのですがこのスタイリング可愛すぎるので貼っておきます。