なんとなく思い立って「OLD JOY」を観た。掠れた歌みたいにいい映画だった。

もうすぐ父親になるマークは、ヒッピー的な生活を続ける旧友カートから久しぶりに電話を受ける。キャンプの誘い。 “戦時大統領”G・W・ブッシュは再選し、カーラジオからはリベラルの自己満足と無力を憂う声が聞こえる……。ゴーストタウンのような町を出て、二人は、ポートランドの外れ、どこかに温泉があるという山へ向かう。(公式サイトより)

昔懐かしい旧友と再会したら「全てが楽しかったあの頃」を取り戻せるかもしれない。そんな期待をするけれど、実際にはうまくいかないんですよね。

本当はこの「再会」は始まりに過ぎず、二人がまた仲良くできるかどうかはここからが肝心なのだと思う。だけどこの作品はそんな予感は描かない。久しぶりに会って、最初のうちは楽しいけれどだんだん「なんか考えていたのと違うな……」という暗雲が発生し、あとはただただ気まずい。キャンプファイヤーを二人(と犬)で囲むといういかにも楽しげなシーンが用意されるのですが「こんな気まずいキャンプファイヤーがあるか?」というくらい、全編中最も気まずいシーンでした(気まずいしか言っていない)。曲で言えばここがサビなんじゃないかな。もはやそんなレベル。

そもそも最初から二人とも「久しぶりに相手に会えて嬉しい」感が薄いんですよね。マークはもうすぐ父親になるというプレッシャーから一時的にでも逃避する先を探していただけのように見えるし、カートはカートで人恋しいだけ(ラストシーンにそんな描写がある)みたいなところがある。本編中では物を落としたり手を離したりするシーンが印象的に描かれているんですが、この行為も二人の関係性の中でのポジティヴ(ネガティヴ)さの結果というより、ただただ自分自身の問題でしかないというか……。うまく言えないのですが、そういうところにも「二人の交流」ではない、ものすごい余所余所しさを感じました。

あとこの旅にはマークの飼い犬が同行して非常に癒し要員なのですが、カートはめちゃくちゃこの犬と遊んであげて仲良しになっているのに、マークはそんなに熱心に犬と関わっている様子が見えなかった(気のせいかもしれないですが)のもそれはそれで個人的には気まずさを増幅する要素でした。

映像はとにかく素晴らしいです。フィルムグレインの美しさよ。ピントが合っているようで合っていない(合っている部分が見せたい部分だと思いますが)のもいい。画面のざらつきはそのまま人生のそれに重なる。その緩いとげのような起伏に引き攣れながらも、人生は前に流れていくしかないロードムービーでした。(230402記)