先日「イニシェリン島の精霊」を見てきた。端的にいうと「おじさんの意地の張り合い」映画だった。そんな地味なテーマで114分も持つのかと思いきや全然持つからすごかった。

本作の舞台は本土が内戦に揺れる1923年、アイルランドの孤島、イニシェリン島。島民全員が顔見知りのこの平和な小さい島で、気のいい男パードリックは長年友情を育んできたはずだった友人コルムに突然の絶縁を告げられる。急な出来事に動揺を隠せないパードリックだったが、理由はわからない。(公式サイトより)

これは半端ねえネタバレなんですが「仲良かったのに急に嫌いになるとかないじゃん……何か重大な種明かしがラストに待ってる系のアレだろ」と思いきや全くそんなことはなく、開始数分で理由は明かされます。エッそんな……ここからどうなるの……?と固唾を飲んで見守るけどどうにもなりません。このあとはひたすら登場人物たち(主にパードリック)がどうにかなっていくのを見守り、あるいは怯えるだけです。そういう映画です。

あとこの映画PG12なんですけど「ポロッと(取れた指が)グロい」の意と言ってもよく(暴言)Gは完全にグロのGなのでちょっとそういう映像でびっくりしたくない方は見ないほうがいいかもしれません。絵面がなかなか詳細だったよ!

というかそもそもこの映画、アイルランドの雄大で美しい景色とその中で繰り広げられる閉塞的な人間関係という対比だけでだいぶグロいです。対岸の本土から内戦の砲音が聞こえて来るのに対しては「やってるねえ〜」みたいに他人事なんだけど、自分たちが人間関係でやっていることも大概同じというグロさもある。閉鎖的な田舎で生きてきた人が「都会はおっかねえところだ」と言うけど、若者はそうは思わない(むしろ反発を覚える)みたいな図を連想してしまい、その辺りは個人的にかなり鬱でしたね。

ついでにBansheeは「人の死を叫び声で予告する妖精(妖怪?)」だそうですが、この映画のタイトルはBansheesで複数形なのも鬱ポイントだと思います。

絶交を言い渡すコルムと言い渡されるパードリックとどちらに感情移入して観るか……と言うのはあると思うんですが、個人的にはどっちもどっち、大して変わりはねえと感じました。それは人間としての相似でもあるんですが、人付き合いにおける「実はあいつ苦手なんだよな……」という感覚と「エッ仲良しだと思ってたのにそうじゃなかったんだ……」という感覚のどちらも覚えがあるという点でもどちらかに肩入れできず、それもまた鬱ポイントでした。鬱ポイントしか言ってないな?

積極的に誰かと観にいくのを勧める作品ではないけれど、観た人と感想をぜひ語り合いたい映画だなとは思いました。あとバリー・コーガンはここでもとてもいい仕事をしています。現場からは以上です。